初めての北壁登攀 (後半)


難しい岩場を乗り越えてきて
「そろそろ限界だ・・・」
そう思い始めた頃、これ以上は上に登れないような岩場でしたのでルートを探して絶壁にしがみつきながら左へ移動してみると、ちょっとした岩場のテラスがあってそこからは岩場ではなく、氷河の壁を登って行くようになっていました。

ここで少し休憩をして行動食で持ってきていたドライフルーツ(パイン)と、残っていた水を全部飲み干して氷河を登るための準備をしていたのですが、時計を見たらすでに19時50分・・・。

「ヤバイ!? そろそろ日が沈む

急いでアイゼンを装着して、両手にはアイスアックスを持って氷河を登り始めたのですが、意外と簡単じゃないか!
これなら後2時間くらいで登れるんじゃない♪
そんな事を思いながら30分も登ったら日が沈み始めて、安全そうな場所でヘッドライトを装着
その時にこの写真を撮影しました!!

写真に写っている手前の日陰の部分を登っていたのですが、ここから傾斜が急に厳しくなり始めて気が付けば暗闇の中、自分のヘッドライトの灯りだけを頼りに氷壁を登る事に・・・。
この時の素直な感想は 【恐怖&不安】 でしたね。
それでも気持ちで負けてしまっては登れる壁でも登れなくなってしまうので、なんとか気持ちを切り換えて最後まで諦める事無く、登頂が何時になってもかまわないので慎重に氷壁を登り続ける事だけを考えるようにしました。

予定時間を大幅に過ぎて体力も限界でしたが、少しでもミスをしたら今まで登ってきた1000mの絶壁を滑り落ちる事になるので、力を振り絞ってアイスアックスを氷壁に打ち込んで、力いっぱいアイゼンの前歯を氷に蹴り込む。ひたすらこの連続です。
悲しい事に登れば登るほど氷壁の傾斜が垂直に近くなってくるのです・・・。
そして最後にはフランス語のルート図に書いてあった通り85度の氷壁

さすがにこの氷壁を暗闇の中(深夜の12時頃)見たときには言葉を失いましたね。自分の登ってきたルートが間違っているんじゃないか?
そう考えたのですが、この壁以外は垂直な岩と氷しかありません・・・。

「やっぱりこの氷壁を登るしかないのか

ヘッドライトで上を照らしたら、85度のこの氷壁が稜線にでる最後の壁になっているみたいでしたので、側にあった垂直の岩にスリング(ザイルの輪)を固定して、もし自分が落ちた場合に備えて自分と岩場に固定したスリングとを結び最後の力を振り絞って登り始めました。

人間本気をだしたら何とかなるもんですね!
85度の氷壁を落ちる事無く無事に登りきって、ミディの稜線に出たときは本当に嬉しかったです。
「これで家に帰れるぞ~!!」 と安心しましたね♪
そしてここから稜線沿いにミディの山頂までフラフラになりながらナイフリッヂを登り、頂上の駅に辿り着いたのは深夜の1時30分です。
朝の9時から登り始めて、合計16時間30分かかってミディの北壁を単独で登りきりました

この日の夜はミディの山頂駅でビバーク(野宿)をしたのですが、北壁を登るために最小限の荷物しか持ってこなかったので、シュラフ(寝袋)やツェルト(簡易テント)、それに着替えもないので北壁を登ってきた姿のまま横になったのですが、深夜のミディ頂上駅の気温が5℃で体も疲れて冷えていたので、朝まで一睡も眠る事ができないまま震えていました・・・。

そして朝一番のゴンドラに乗ってシャモニの街へ下山。

今まで何度もミディのゴンドラに乗って北壁を見てきましたが、このとき見た北壁は忘れられません。
いつも応援してくださる皆さん、本当にありがとうございました。
これからも満足する事なく、次なる山へ挑戦し続けていきます。

コメント

  1. Jun より:

    kyo-ちゃん
    ミディの北壁では歌を歌いながら壁を登る余裕はなかったけど、家に帰ってこれば疲れを忘れてのん気に歌っていましたよ

    kyo-ちゃんがシャモニへ遊びに来た時に、自分が言った目標を無事に達成できて今は一安心しています。
    明日からは予定していたグリンデルワルトへ出発して、次なる目標の山へ登りに行って来ます!!

    これからも挑戦し続けますよ

  2. kyoko より:

    やったね!!!!!
    Junくん!
    おめでとう
    やっぱ、やるなぁ~
    山の海賊王は
    あの壁を登ったんだね。
    ホントよかった。無事に帰ってこれて。
    これからも夢に向かってがんばってね

  3. Jun より:

    kanちゃん
    かんちゃん、お久しぶりです♪
    日本の暑い夏もそろそろ過ぎ去った頃でしょうか?

    かんちゃんも無事に日本一の富士山へ登頂する事ができたのですね!
    ☆おめでとうございます☆
    頂上からのご来光は最高に美しかった事でしょう♪

    やっぱり信じる事は大切ですね!
    出来ると思って行動する事。晴れると思って頂上を目指す事。自分はいつも必ず出来ると自分に言い聞かして山へ登りに行っていますよ。

    自信過剰は良くないと思いますが、常にプラス思考でこれからも色んな事に挑戦していきたいと思います!

  4. kan より:

    すごすぎ・・・
    じゅんくん、ご無沙汰です。かんです。
    経ちゃんから今年のシャモニー話も聞きましたよ。
    私は富士山に登り、見事日本一のご来光を拝めました!! 
    その前にじゅんくんとちょっと話しましたね。
    「私は晴れ女やから絶対ご来光は見れると思ってる。」って言ったら、
    「思い込みは大事ですよ~。ぼくは勢いと思い込みだけで生きてます」って。
    ほんとそのとおりですね。
    こんなすごいことをやってしまうには勢いと
    そして、自分は制覇できるんやっていう思い込みが
    ないとできませんよね~。
    真夜中に一人孤独に北壁と戦って、不安と恐怖でなんどくじけそうになったことか・・・
    想像を絶する格闘でしたね。
    おめでとう!!やったね~!!
    次にはどんな報告があるのか楽しみにしていますが、
    くれぐれも体、命を大切に。。。

  5. Jun より:

    tadaさん
    ありがとうございます。
    今回のミディ北壁を登っている時は久しぶりに不安と恐怖を感じて、山での技術よりも精神的な強さが必要だと思いました。
    低い山や簡単だと言われる山でも、天候や自分の健康状態によって山は変わってきますので、これからも初心を忘れる事無く色々な山へ挑戦していきます!

    そして今後もトレーニングを欠かさずに、楽しみながら岩へ登りに行ってきます♪

  6. tada より:

    すばらしい
    85度の氷壁を単独での登頂おめでとうございます!!!!
     夢枕 獏の「神々の山頂」での主人公みたいな感じで、スリルを感じ読みました。不安と恐怖を感じながら登られた様子に想像しもって、ひやひやでした。比べ物になりませんが、高所恐怖症の私も、恐怖で足が震え泣きながら登った槍ヶ岳での恐怖から、どれくらいを想像すればいいのでしょう?。
     きっと、山の神がいて守ってくれていると思います。これからも、おきをつけて!!